神様がそばにいる村

春のきざしを感じつつも、まだほんのりと肌寒さも残る3月。初めて南九州―椎葉村を訪れた。

時折降ったり止んだりを繰り返す小雨のなか、山あいに立ち込める霧がなんともいえず幻想的である。道路は思ったよりも比較的整備されているが、山々の風景はずっと古よりさほど変わってはいないのであろう。山の神様が本当にそこにいるような気がして、思わす手を合わせたくなる。

急斜面を切り開いて建てられた家屋は横長で、まるで段々畑のようである。段々畑を登るように急な坂を登って宴の会場へ向かう。慣れない自分はすぐに息が上がってしまい、時々休憩を入れないときつい。

夜の宴では、村民の方々の手作り料理をはじめとした郷土料理が振舞われた。椎葉で代々受け継がれてきた料理の数々。「お客さんがみえるから、きのうイノシシをとってきたよ」。これも椎葉流おもてなしのひとつであろうか。

そして舞台に舞手が登り、それまで料理をせっせと給仕していたお母さんが、その手を止めることなく唄を歌いだし神楽が始まる。まるで食事の続きのように。厳かな雰囲気のなかにもやんわりとした、そして実にのんびりとしたおかあさんの歌声が響き、地元の方がふるまうお酒と一緒にじわじわと、心に身体に染みる。神楽は椎葉にとってはごくごく身近な生活の一部なのだろう。

決して便利とは言えない環境のなかで暮らすからこそ、昔ながらの伝統や知恵が代々受け継がれてきたのだろう。神様からいただいた様々な恩恵を感じ、自然に感謝しながら日々の生活を丁寧に暮らしている、そんな印象を強く感じた。

椎葉―神様がそばにいる村、またいつか違う季節にも是非訪れてみたい。

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