棚田とYouTube

「稲刈り体験をしてみましょう」ということで、地域おこし協力隊の方に、遠くに上椎葉ダムを望む、本当に山の上の急斜面にある棚田でコメ作りをしている方のお宅に連れて行っていただきました。「ここで鎌を使って実際に稲刈りをしてみましょう。」と言われ、靴を履き替え、軍手をはめて棚田に入ってゆきました。

都会から来た私たちのために、わざわざコンバインを使わず、手で稲を刈る体験をさせてくださるのかな、と思っていましたが、実際に棚田に行ってみると、そんな簡単なことではないということが分かりました。急斜面に作られた棚田は幅が狭いため、鎌で稲を刈るか、あるいは手押し型のバインダーを使う必要があること、そしてバインダーを棚田に入れて使う場合にも、田んぼの四隅の稲をあらかじめ刈り取っておく必要があるということを説明してもらいます。そんな大事な仕事を私が手伝ってもいいのだろうかと、少し不安になってきました。

私は鎌で刈り取った稲を束にする「くびり」の方法を教えていただき、いざ喜んで稲刈り体験を始めました。しかし、というか、やはり、というか、まったく上手く「くびる」ことができません。「刈り取った稲をワラで二重に巻いて、指を差し込んで隙間を作り、巻いたワラのあまった部分をねじり、それを隙間に差し込んでこのようにしてくびります」「このようにくびっておくと、乾燥した時にワラが締り、うまくまとめることができます」と説明してもらいましたが、私が「くびった」束はゆるゆるで、たとえ乾燥してもワラが締まるようには思えず、結局普通の蝶々結びで「しばって」しまいました。

鎌を使った稲刈りが終わると、農家の方がバインダーを使って稲刈りを始めました。しかし、しばらくすると、どうもバインダーの、刈り取った稲を紐でまとめる部分が故障してしまったようでした。すると農家の方と地域おこし協力隊の方が、スマホを使い、YouTubeで「バインダーの故障の直し方」を検索し始めました。結局、修理方法の動画を見たのかどうかは分かりませんでしたが、しばらくするとバインダーの修理も終わり、稲刈りが再開されました。

都会生まれ・都会育ちの私にとって、農業とは、たとえ機械化しても都会の生活とはどこかかけ離れた仕事のような気がしていました。しかし、100年近く前に石垣を積んで作られた、コンバインが入らないような幅の狭い棚田の中で、スマホでYouTubeにアクセスし、バインダーの修理方法の動画を探すという、地域の歴史と現代の技術が同時に存在している椎葉村の農業を見ることができたのは、私にとっては鎌を使った稲刈りやワラを使った「くびり」と同じぐらい興味深い体験で、農業もやはり同時代の仕事なんだ、ということを確認することができました。

TI

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