自分たちのことは自分たちでやる。地域の魅力的な人ローカルヒーロー特集


「地域のことをせんでいいと言われたら、不便しかない」
そう語るのは椎葉村役場の職員でもあり、消防団員でもある椎葉竜也(しいば たつや)さん。

竜也さんが話す”地域のこと”にはどんなものがあると思いますか?

例えば、深い山に切り開かれた集落の人の生活道は、定期的に手入れをしないと、すぐに生い茂ってしまいますし、児童が少ない小学校の運動会を盛り上げるために、地域の若い世代が運動会の運営補助をしてくれています。
このように、人口が少ない田舎では、若い世代の人手は様々な場面で必要とされています。
こういった”地域のこと”は一見大変そうですよね。にも関わらず、”地域のこと”を大切に思える理由はどこにあるのでしょうか。

竜也さんは、島根県で育ち、25歳で縁があって椎葉村に住むことに。
役場職員として勤務し始めて2019年で13年目になります。
人里離れた宮崎県の椎葉村。秘境と呼ばれるほどの山奥の田舎の暮らしは便利とはかけ離れた生活です。コンビニもない、信号機も1つしかありません。
それでも不便を超えるほどの「なにか」があると、彼は話します。

椎葉村には消防署はありません。常勤の消防士もいません。では、災害時にはどうなると思いますか?
119の電話は役場の総務課に繋がります。なんと、役場の消防主任が指揮をとり、役場職員の男性方が消防士のように一瞬で消防服に着替え、現場へと向かうのです。
それは人口が少ないからこそ、自分たちのことは自分たちで守っている姿。

こんな風に地域を守るのは役場消防隊だけではありません。役場消防隊は初動の人員確保のために行われ、もちろん、それぞれの地区の消防隊にも出動要請がかかります。各地区の消防団員も通常は別の仕事を持っており、役場消防隊と同じく、出動要請がかかれば仕事を中断して現場へと駆けつけます。

こうした彼らの現状を目の当たりにした私は、この人たちが背負っているものの大きさに驚きました。そして、当人たちは負担に感じているのではないかとも思いました。正直にその思いを伝えてみると、
「怖いという気持ちより早く止めなきゃいけないという意識になりますね。」と竜也さん。
言葉の端々から、消防団の誇りや責任感のような、頼りがいのある雰囲気が漂います。

消防団としての出動要請を受けるのは、火災や人の捜索、台風被害が発生した場合の災害復旧など。
竜也さんは消防団の中で”指揮班長”という役をされており、火災発生時には火の近くで消火活動を行う場面が多いそうです。

この話を聞いて思い出すのは、とある年の夏、村内で火災が起こったときのこと。
突然、庁舎全体に「役場消防隊出動」のアナウンスが入り、普段通り役場で仕事をしていた人たちが一瞬で消防服に着替え、現場へと向かいました。
残ったのは女性職員と年長者。がらんとした庁舎内。
総務課では災害対策本部が設置され、現場の状況を整理して総務課が地図を広げます。
庁舎内のただならぬ雰囲気にみんながけがをしないか、無事に帰ってきてくれるか、火災はすぐに収まるか…あらゆる不安に飲み込まれそうでした。

いつも通り冗談を言いながら汗だくで戻ってきたみんなの姿は、これまでにないほど輝いて見え、椎葉村にはこの人たちがいるから大丈夫だと強く感じました。
幸いにも火災は大事には至らず、けが人もいませんでした。鎮火の連絡が入りほっとしたところに役場消防隊が帰ってきました。
自分の危険も顧みず、地域を守る消防団。ではなぜこれほどに地域を大切にできるのでしょうか。

それは地域や地域の人に愛着があるからだと思います。
この地域は全員が知り合いです。
例えば、都会では知らない人の方が多く、街が汚れたところでなにも思いませんが、ここではそうではないのです。

ずーっと家族のように一緒に暮らしてきた地域の人たちからの期待感も感じるし、支えてくれている地域の人たちのために何かしたいと感じる。
だからこそ、「消防は大変だからいやだという思いから、せんといかん!という意識に変わってきました。」と話してくれる竜也さん。
ここでの暮らしは、人との繋がりの中で一人一人を大切に思う温かさで成り立っていました。

冒頭に書いた「地域のことをせんでいいと言われたら、不便しかない」という言葉は、誰かに大切に思われ、誰かを大切に思う竜也さんの人柄で、生き方なんだと思いました。

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