椎葉の人は百面相~牛飼いの久喜さん①~後編

椎葉村に引っ越して3か月。少しずつですが知り合いも増えてきました。村の人に出会って驚いたのは、一人一人がいろんな顔を持っていること。神楽の舞い手だと思っていた人がガソリンスタンドで働いていたり、牛飼いだと思っていた人が神主をしていたり、役場職員だと思っていた人が家では椎茸を作っていたり。同じ人なのに会うたびにその人の違う一面が出てきて、一体いくつの顔を持っているんだと。椎葉の人はまさに百面相。このシリーズでは百の顔を持った椎葉人にスポットライトを当て、その人のいろんな顔を紹介していきます。

放牧し終えると次は牛舎の掃除が始まる。この作業は肥上げ(こえあげ)といって牛の糞尿を一輪車で運び出し、畑に捨てる。

捨てるといっても暫く畑に放置された肥は文字通り畑の肥料に使われる。そのおかげで畑には肥料を買って入れることはしない。

匂いもあるし作業としては決して楽ではないけれど、肥上げっていい名前だなあ。

そのあとは牛のごはん作り。ハミ切りといって発酵させた干し草を細かく粉砕していく。この作業は2~3日に一回の作業で、これも干し草のロールが一つ200キロはあるのでなかなかの重労働。

86歳にしてこれを一人でやる久喜さん本当にすごい。。

牛には粉砕した干し草に加えて乾燥させたトウモロコシなどの穀物を混ぜてあげる。先日は梅干しもあげていた。牛も珍しいものを食べられて喜んでいる気がした。

夕方、日が沈む前になると放牧場から牛小屋に移動させる。放牧場に行くとごはんが待ち遠しい牛たちは入り口の目の前で待機していてかわいいのだが、なかなかの迫力でもある。

柵を外すと朝と同じように列をなして牛舎へ向かう。先導するのはほとんどがゆっくり歩く久子さんの仕事だという。牛たちは決して久子さんよりは前に出ない。(この日は久喜さんが先導していた)

彼らは自分の場所もわかっていて牛舎に入ると一目散に自分のごはんへと顔を突っ込む。トウモロコシばっかり食べて牧草を残しがちな牛や、残さずむしゃむしゃ全部食べる牛。

牛も性格がそれぞれ違っていて面白い。

雨や雪の日は放牧はしないというが、エサやりに休みはない。久喜さんと久子さんはこれを毎日やっている。

自分がご飯を食べるように。歯を磨くように。風呂に入るように。毎日やっている。

1日にやることはこれだけではなくて放牧している間に畑をやったり、家事をやったり、漬物を仕込んだり。

椎葉に来て牛を飼っているという人に何人かお会いしたが、実際に作業を目の当たりにしてこれを毎日することを想像すると

みんな何食わぬ顔ですごいことしてるよなあと思った。

ある日、一緒に作業をしているときに聞いてみた。

久喜さんって、どんな仕事が一番好きですか。

「そりゃあ、もちろん牛飼いが一番じゃのう。」

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