椎葉の人は百面相③~鶏を飼う久喜さん~

椎葉村に引っ越して3か月。少しずつですが知り合いも増えてきました。村の人に出会って驚いたのは、一人一人がいろんな顔を持っていること。神楽の舞い手だと思っていた人がガソリンスタンドで働いていたり、牛飼いだと思っていた人が神主をしていたり、役場職員だと思っていた人が家では椎茸を作っていたり。同じ人なのに会うたびにその人の違う一面が出てきて、一体いくつの顔を持っているんだと。椎葉の人はまさに百面相。このシリーズでは百の顔を持った椎葉人にスポットライトを当て、その人のいろんな顔を紹介していきます。

久喜さんの家に行くと玄関にはいつもバケツいっぱいに卵が入っている。

僕が初めてお家を訪ねた時も、ご挨拶しただけで何も手伝ってもいないのに卵を持たせてくれた。

親戚やご近所さんから人気の卵で、みんなに配るだけで売り切れてしまい販売はしていないレアものだ。

久喜さんは数種類のニワトリを合計40羽ほど飼っている。ニワトリ小屋は二つあって一つはチャボと現役で卵を産む若鶏の小屋で、

もう一つはあまり卵を産まなくなったニワトリがいる小屋。

牛の世話も毎日のことだけど、ニワトリの世話ももちろん毎日のこと。毎日ごはんをやりに行って、卵をバケツいっぱいに取って帰ってくる。

ある日作業についていくと、白くてひと際大きいニワトリが仲間入りしていた。もう大きすぎて飛ぶどころか歩くのもやっとといったところ。

「こいつは夜でも昼みたいに明かりをつけてエサを食べさせられるそうだ。」

この白いニワトリはブロイラーと呼ばれ食肉用に品種改良された子たちで、寝る間も惜しんでエサを食べさせて大きくしているのだとか、、。

僕らはいつもそういうニワトリを食べているらしい。ここにいるブロイラーは久喜さんが知り合いからもらったのだそう。

「卵も産まないからただ養ってるだけなんだ。おまえ、今度捌いて食わないか。」

唐突に提案に驚いたが、こんな経験はなかなかできないと思い快諾した。

久喜さんは普段はあまり捌くことがないらしく、ほとんどの作業をやらせてもらえることに。

ネットで調べ、予習ばっちりで数日後再度お邪魔した。

まずはお湯焚きを任されたので焚きつけていると、何やら聞きなれない声が。

様子を見に行くと2羽の鶏がすでに絞められていた。

あっという間の出来事だった。普段やらないとはいうもののとても手馴れている。

椎葉の人と話しているとよくあるのだが、できることの基準がとても高いので「苦手」とか「あまりやらない」とか言っていても僕なんかからしたらめちゃくちゃできいて、何なら慣れてたりうまかったりする。

今回もそのパターンだ。

その後は血を抜き、お湯に浸して羽を抜いて丸裸に。この状態になってくると動物としてのニワトリから食物としてのお肉に見えてくる。不思議だ。さっきまでエサを食べて鳴いていた子たちが僕らの食べ物になっている。

それからは予習通りに捌いていった。見るのとやるのは違って完ぺきにはならないが、何とか食べられる状態になった。

久喜さんのお勧めでささみを初めてお刺身としていただいた。甘みがあって柔らかくおいしい。久喜さんも僕もぱくぱく食べた。

久子さんは肉の刺身は好まないようで微笑んで見守っていてた。

僕にとっては非日常のとても貴重な体験なのだが、この山の中で鶏を捌いていると自分にとっても何度かやったことがあるような日常のことのように感じてくる。もちろん久喜さんや椎葉の人にとっては日常の一つなのだが。この環境では生きている命をいただくということが自然な行為なのだなと思った。そういう動物として当たり前の健全さがこの村にはある気がして、やはりとても好きだ。

そんなことを感じた一日でした。

分けてもらったお肉たちは大事に、美味しく料理していただこうと誓いました。

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